5コーポレーション

ENTRY

基調講演カミガキヒロフミさん基調講演「21世紀を生き抜く力とは」

カミガキヒロフミさん

弊社のコーポレートイラストを描いていただいている、広島を代表するイラストレーター・デザイナーのカミガキヒロフミさんに、2017年度入社式にて基調講演をしていただきました。

21世紀を生き抜く力とは?

新入社員の皆さん、今日はおめでとうございます。若い会社に入れて、僕はすごい良かったんじゃないかと思うし、後悔のないように、日々を送ってほしいです。

「基調講演」って書いてあったんですけど、辞書で調べるとですね、まあ、「基本方針についての講演」ですね。

要は、僕がドレミファソラシドの「ド」を、ここで「ド!」って言ったら、今期の5-Daysは「レミファソラシド」って…、僕が決めていいんですか?「大丈夫ですか?」「こんなことぼくにやらせて」…とまあ、こんな気分になったんで、ちょっと社長に電話して、これ間違ってないかな?!って言おうと思ったんですけど、今も(笑ってる)声が聞こえますけど、まあここはですね、株式会社5コーポレーションのベンチャー精神に敬意を表して考えたんですけど、このお題もですね、社長がもう書いてたんですよ、「21世紀を生き抜く力とは」っていう。

僕考えました。21世紀を生き抜く力とは…。すみません。ぼくにはわかりません。もう結論から言うと、さっぱりわかりません。なので、開き直って自分のことを話します。その中から、なにかを見つけ出してください。

カミガキヒロフミさん

強い想いで、見えない壁を越えていこう!

まず自己紹介なんですけど、僕は、普通の人間です。よく絵が描けるだけで、「才能あるねえ!」と言われますが、残念ながら自分が特別な才能があるとは、まったく思えません。

みなさんが国語ができたり、英語が話せたり、数学がわかったりするのとまったく一緒で、特別な才能ではないんですね。間違いないと思うんですけど、僕はこのホールにいる人たちの中で、最も学業をおろそかにした人間だとも言えます。なぜなら…、僕にとって、学校の授業はお絵かきの時間だったから。これは消去法だったんですけど、授業の40分、45分、しっかりきけない、きくのがつまらない。隣の人と話すわけにもいかない。そしたらまあ、落書きをすのが僕にとって一番有意義な時間だったという、これを僕は当時の学校も緩かったので、23歳まで続けることができました。

とはいえ、恥ずかしながらクラスで一番絵がうまい訳でもありませんでした。ではなぜここまで来ることができたのでしょうか?

まあ、「やりたかったから」。すみません、月並みで申し訳ないですけど、これしか答えが出てこないんですね。「やりたい、成りたい、言いたい、叶えたい、行きたい、格好つけたい、会いたい、話したい…。」そういうことなんですよ。ここで、やりたさが強くなってくると、「やりたくない」という壁を超えていくんじゃないかと思うんです。我慢できなくなるんですよね。やりたいから。「やりたい!」っていう気持ちが上回ってくると、どんなことでもできるんじゃないかと思ってます。

今日言いたいことは、「強い想いで、見えない壁を越えていこう!」。こんな感じでいきたいと思います。

社会人になった君たちを待ち受けているのは見えない壁

新入社員の皆さんに言いたいのは、今までの人生は、ずっと目の前に壁があったと思うんですよ。越さなきゃいけないハードル、中学高校受験、大学受験、国家資格などもそうですが、必ず試験をパスしなきゃいけない。ただ社会人がどうかというと、実際そうではないんですよ。僕も何の資格もないですし、ずるのできる世界なんですけど、大学までちゃんと試験を受けて、真面目に生きて社会に出ると、ついつい自分で壁を作ってしまうんですね。

若い人は、アニメとかも教育的だったり、教育のレベルも上がってきてるので真面目になってきてるんですね。社会的な参画度などで言うと、確実に上がってきていてですね、君らの時代というと非常に洗練されてます。僕は好きなんですけど、ただ、逆にその分自分たちで枠を作りがちだと思うんですよね。でもね、そういう枠ってね、絶対に抜け道があるんですよ。そこを、強い想いで、超えていけるといいなと思うんです。

一番最初の、「基調講演 21世紀を生き抜く力とは」のタイトルページに戻るんですけど、僕自分でこれを打っていてですね、ふと思ったんですよ。僕の場合デザイナーなので、「問題」としてはタイトルページを作る。文字を読みやすくレイアウトするというのが「解決」ですね。でもここ(問題と解決の間)に、「固定観念」というのがあって、普通に打ってしまうと、こう(シンプルなレイアウト)なります。でも、このほう(イラスト)が楽しくないですか?だったら僕はこのほうが良いと思うんです。そういうところで、僕にも常に壁があると。だから、こういうグラフィックの仕事をしていて、固定観念とか既成概念みたいなことを常に外して考えれないかということを毎日考えている人間なんです。

カミガキヒロフミさん

僕のこと

また僕の話しますね。皆さんご存知のように、こういう絵を描いております。5コーポレーションのイラストでは、去年、アメリカの3×3マガジンで金賞をもらいました。

最近では国連の女性差別撤廃キャンペーンで、ドバイリンクスという最大の広告賞で金をもらったんですが、これはウォーリーを探せみたいな企画で、全員男の人の絵の中に、ひとりだけ女性が混ざっていると。女の人を職場で探すのは、こんなに難しいんですよということを表現しています。

あと「迷路探偵ピエール」という本を出版していています。こんなことをしていますが、僕たちの会社は製作スタッフがいまだにたった4人で、東京ではなく、ずっと広島で活動しています。しかも10年前までは、広島の人たちにさえ知られていないデザイン事務所でした。

タイムスリップしましょう。35年位前の僕なんですが、今の皆さんと同じだと思いますが、なんだかよくわからんけど、何者かになりたいみたいな。ただ、何者かになれる要素があるかというと全くなかったんですが、このころに僕は「アメリカ横断ウルトラクイズ」というので、「ニューヨークっていうのはすごいところ」という刷り込みを受けます。

それから、子供のころから夢だったイラストレーターになりたい芸術学部に入学した僕は、22歳になっていました。この時の僕は、「楽しいことや、好きなことだけやって成功したい。」こんな人間だったんですよ。イラストはまあ自分の好きなことを描く!という、これだけやって食えたらなーということを、ぼんやり考えていました。ところがですね、卒業して、就職せきゃいけんわけです。「ビデオゲーム会社って面白そうじゃん!」と思って、2社あるなかで1社は同級生が入社していたので、後輩にはなりたくなくて、もう1社しかなく、そこはもう電話で問い合わせても募集していなかったんですが、「何とかあなたの会社に就職したい!」と作品の写真と一緒に手紙を書きました。すると、なんと合格したんですね。なんと、僕の想いは、求人なしという壁を超えたのでした。

ところが、まだ遊びたかったんですね。毎週、週末のことを考えて生きていきます。夏はスケートボード、冬はスノーボード、でもやっぱりそんな生活をしながらも、なにか心に引っかかるものはあったんですよ。「ほんとうにこのままでいいの?」という風にですね、僕のブッタが(笑)

「楽しいことって何?」と思ったときに、イラストレーターとして成功することが、自分の夢をかなえる一番の近道かと思いました。ここから決心して、ここからが僕の「泥の時代」と呼ばれるんですけど、デザイン会社に就職します。当時ゲーム会社ではそこそこの給料をもらって自由時間を謳歌していたんですけど、デザイン会社では労働時間はとても長くなります。当然嫌なことばかりじゃなくて、自分でいいもの作りたいと思って残業するんで、毎日の深夜業務がつらくてしょうがないということではないんですけど、ここは大事で、「何時までやれ」って言われてやるのと、自分で「この仕事をちゃんと片づけたいからやろう」というのとは全然違うんですよ。

でも、会社の給料も安く、ついにマンションのローンが払えなくなってしまいました。人生でいうとこの時代は最悪の経験なんですけど、ここで仕方がないので独立しました。

カミガキヒロフミさん

締め切りのある仕事と締め切りのない仕事

独立して何とかご飯が食べられるようになると、もっと大きい仕事がしたいという気持ちが頭をもたげてきます。ある時、こんな記事を目にします。横綱千代の富士が、「今強くなる稽古と、3年先に強くなるための稽古と、両方しなくちゃならない」って書いていたんですね。つまり、「やらなきゃいけないこと」と、「やりたいこと」を両方やれということを教えてくれたんです。

会社でいうと、「締め切りのある仕事」と「締め切りのない仕事」、明日までに書類を出してという「締め切りのある仕事」は、みんなやりますよね。でも、資格を取ったり、将来海外で仕事がしたいから英語を勉強するとか、そういう「締め切りのない仕事」は、ついつい後に伸ばします。そうやっていると、当然ですが、現状を変えることはできませんよね。

僕の場合で言うと、最初、やらなければならない仕事をやっていて、夜中にイラストを描いてためてました。だんだんそのラインナップが増えてくると、お客さんに見せたら、「いいじゃん!描いてや!」ってなります。そしたら、それがやらなきゃいけない仕事の中に組み込まれるんですね。それを何年か繰り返すと、やりたい仕事が回せるようになるんですね。

東京もニューヨークも変わらない

ここらへんでふと気づきます。40になりました。さすがに、楽しいことや、好きなことだけやって生きていきたい、イラストレーターとして成功したいと思ってきましたが、やばいぞと。僕らずっと広島でやってきたんですけど、日本で有名になろうと思うと、ここで「東京」という大きな壁が立ちはだかります。

東京の商圏というのがデザインではやはり大きくて、皆さんが目にする有名なCMなどはほとんど東京発になります。つまり、東京=日本みたいな感覚が僕らの業界にはあるわけですね。じゃあ東京に行きますかといっても、友人や家族も広島にいるので、行くわけにもいかない。

そこで僕がラッキーだったのは、Eメールの時代が来てたんですね。じゃあEメールでさあ東京に売り込もうかって言ったときに、あれ?これニューヨークに売り込んでも、一緒よね?と。これは、東京に住んでいたらここに気づかなかったと思うんですけど、広島からだったら、東京もニューヨークも変わらない距離感だったんですね。

ここで、福留さんが僕に言ってくれるわけですよ。「ニューヨークへ行きたいか~?!」当然ですよね。僕らは、東京よりもむしろニューヨークに売り込みを開始しました。

転機

僕らが決めたのは、1000件。まあ、イラストを見てもらったら、必ずチャンスはあると思ってたんですよ。さすがに1000件電話やメールをしたら、1件ぐらい仕事を出してくれるだろうと、ひたすら仕事ができるまで電話とメールを繰り返したらですね、100件ぐらいのところで、一緒にやろう!というところが出てきました。

ハワードヒューズメディカルインスティトュートっていう科学系の専門誌で、遺伝子のことを森に例えて描いたイラストで、これが記念すべきアメリカ進出第一弾なんですけど、ここから転機が訪れます。

ニューヨークタイムスマガジンの表紙、この仕事を出してくれた当時の有名なアートディレクターのアレムが、 「君たちに描いて欲しいものは、雑誌を手に取った人が、何十秒か眺めるのではなく、何分も見てしまうような、細かいディテールのイラストだ!」この言葉により、現在の自分たちのスタイルに確信が持てました。

これで一生楽ができると思いましたが、海の向こうの話ですから、広島での生活は実際は何も変わらないんですね。それでもその効果があった成果、アメリカの鉄道を祝うお祭りナショナルトレインデイに僕のイラストが使われます。

今度こそこれで楽になれる。と思いましたが、人生そんなに甘くないですね。ここで一つ気づいたことがあります。活躍しているアーティストほど、賞や売り込みなどをどん欲に行っているんですね。僕らの思っていたよりもはるかに沢山の売り方をしていると。本来僕が思うに、若い時がどん欲に売り込むべきじゃないかなと思っていて、大御所になると左うちわで仕事が入ってくるかと思っていたんですけど、じつは上に行っている人はそれをやってきて、しかもやり続けているからこそ高いレベルで仕事ができているということにやっと気づきます。

具体的には、アワードに僕らが1作品を出すとします。有名なイラストレーターは100作品出しています。Behanceのアップロード数、僕たちのは全部で18作品ですが、人気の作家は100作品以上アップロードしています。そして、彼らはたくさんの作品を作って、たくさんのコンペに出し続けています。残念ながらこれも事実です。

とはいえ活動を続けていればじわじわ知名度は上がってきます。以外にもこの時日本で僕らを応援してくれたのは東京で活躍してるイラストレーターの人やネットで知り合った海外のクリエーターたちでした。

海外の人たちと仕事をして思ったこと

海外の人たちと仕事をして思ったことは、まず「国境に壁はない」ということです。言葉も国籍も仕事の中では気にしていないです。気にしているのは自分だけ。彼らは英語が話せてコミュニケーションが取れれば何人でもいいんですよ。要は作品が良ければいいということ。

日本は、「あなた知ってますよ」ということで仕事になる。でも、そこまではなかなか入れてもらえなかったりするんですよね。海外の場合は、作品が良かったら僕が何人であろうと広島に住んでいようと「いいじゃん!仕事しようや!」と言ってくれます。そのかわり、悪かったらすぐサヨナラ。でも日本の場合は、なかなか入れてくれないけど、一回入ると、「次も頼むよ」と、そういう良さはあります。これは良し悪しですが、日本人としてそういうことがあるというのは知っておいたほうがいいと思います。

もう一つ感じるのは、世界をマーケットにしているということです。これは絶対に出てくる。おそらく5コーポレーションもいずれは日本国内だけじゃなくて台湾に進出しようとかいやアメリカに行きましょうみたいなことも出てくると思います。それはもうみんなでやればかなうことなんで、今からどんどんそうなります。さっき広島は広島だけ、東京は日本といいましたが、アメリカ、イギリスの企業は世界を見ています。72億人をマーケットにしている会社がたくさんあるわけです。

海外の仕事をするようになって僕がどう思ったか?海外の仕事ってやっぱり楽しい!っというようなうちに、東京からの仕事が増え、今年から東京イラストレーターズソサエティの会員になってしまいました。日本人って逆輸入が好きなんで。

カミガキヒロフミさん

とりあえず「はい!」と言ってやってみる

これは5コーポレーションのロゴなんですけど、皆さんの社長が選んだのはこの右の、一番ゆるいやつですね。なのでこの会社っていうのは、たぶんあまり固定観念とか既成概念とかを気にしてないんかなあって僕は思いました。それは皆さんにとってすごくいいことだから、やれば伸びていける土壌があると思います。

ここからは僕から新入社員の皆さんへのメッセージですが、とりあえず「はい!」と言ってやってみる、というのは、今から生きていくなかですごく大事です。なぜかというと、僕自身がさっき「やりたい!」というのを気持ちがいいとか大事だとか言ってきたけど、自分で「やりたい!」っていう火を熾してモチベーションを持ち続けるのってすごい大変なんですね。人に「カミガキくんちょっとこの絵描いてみん?」って言われて「はい!」って言うと、必ずそれが自分のレベルに合ってないんですよ。自分のレベルに合ってる仕事なんてなかなか来ない。もうすごく高い、「こんなんできんよ」っていう事が時々あるんです。でも「はい!」って言っちゃったからなんとかせんといけんからやると、「あれ、ちょっとレベル上がったかな?」っていう気になります。

だから、やろううかなどうしようかなっていうときは、「はい!」って言うとですね、自然とこう、いい感じになると思います。

仕事の中に楽しい部分を見つける

仕事の中に楽しい部分を見つけるっていうのは、今から毎日を過ごす中で当然ですけど大事でしょう。何度も言いますが、固定観念とかいう壁を壊しましょう。できないといって自分で壁を作っちゃダメ。

なんとかやりたい、それをうまく会社のポジションを利用して何とか実現できないかと、それぐらいの感覚でいいのかなと思います。

ゴールは、多分多くの人が、「幸福」です。それが金・名誉・地位・自由・家族…人それぞれだと思います。それがまだ見つかっていない人もいるかもしれないけど、僕が常々思っているのは、みんなが自転車に乗って、曲がり角を曲がる時、右手を引いて、左足を踏み込んでっていちいち考えてないと思うんですよ。ただ行きたいところを見てるだけで、体が勝手に曲がっているはずなんですよ。ダーツとか真ん中を射抜く時も、「真ん中に当てたい!」っていう気持ちだけで投げると思うんですよ。大体の場所でいいと思います。想いが強ければなんとかなるよと。あまり考えずに、自然体でいきましょう。

あなたたちを阻む壁は、いたるところにあります。そのほとんどは、あなた自身が作り出しているのです。あなたがこれから本当に何かがしたければ、その壁は必ず超えることができます。やりたいとおもったらやってみてください。意見があったらとりあえず言ってみてください。自分の人生、自分の仕事を、楽しんでください。

カミガキヒロフミさん

カミガキさん、ありがとうございました。これからも弊社の発展にお力添えをお願いいたします!

IC4DESIGN

カミガキヒロフミ氏(IC4DESIGN)

受賞歴:●ADC 89 デザイン・プリント/イラストレーション部門 銀賞(America) ●ADC 91 イラストレーション部門 入選 ●TASCHEN / Illustration Now! Vol. 4 および 2013 掲載 ●Illustration Annual 52 入選(America)●ドバイ Lynx 2013 インタラクティブ 銅賞 ●ドバイ Lynx 2012 プリント & ポスター クラフト キャンペーン 銅賞●イラストレーション通信 金賞 ●日経広告賞 コーポレートブランド広告賞 優秀賞 他